今回のYUMEMI PEOPLEは、夢見ヶ崎動物公園の飼育員、長谷川さんをご紹介します。
長谷川さんは、夢見ヶ崎動物公園に勤務して15年目のベテラン飼育員さんです。レッサーパンダ、大型インコ、マーコール、コモンマーモセットの飼育を担当しています。9月22日のレッドパンダデーでは、ネパールへのエコツアーのお話もしていましたね。
同動物公園の公式Facebookページで「夢見ヶ崎昆虫記」も連載しています。飼育員であると同時に生き物大好きでもある長谷川さんに、40年も続けているフィールドワークのこと、生き物のこと、いろいろ聞いてきました!
13年かかってやっと動物園に来れました
長谷川さんにとって、夢見ヶ崎動物公園は幼いころからの遊び場だったそうです。当時の飼育員さんの『カメの性別はひっこぬかないとわからないよ』という冗談に、本気でショックを受ける…なんてこともありましたが、元々、生き物好きだった長谷川少年は「動物園の人になりたい」という夢を持っていました。動物園の人、つまり、動物の飼育員です。
進路を強く意識しはじめたのは高校生になってから。飼育員になるにはどうしたらいいか?と考えた長谷川さんは、なんと動物園という動物園に電話をかけていった!…行動力すごいですね。
簡単には見つからなかったそうですが、伊豆にあるカメ専門の動物園に勤務することに!多忙な日々を過ごしますが、負担が大きく退職します。動物園の飼育員の仕事は、動物とふれあっているように見えて、実はハードなお仕事です。「自分で工夫して時間を作らないとバテちゃう」くらいの大変さなのだそうです…。
その後、夢見ヶ崎動物公園が市役所の一部署であることを知った長谷川さん、当時貫いていたファッションスタイルであるロン毛・金髪・ピアス (!) を一時封印し、市役所に入職、動物公園勤務を目指します。
ここの人になれたのは、すごいうれしかった。
動物と植物に関しては「知らない」って言いたくない
長い道のりを経て、夢をかなえた長谷川さん。毎日の遊び場だった、当時の夢見ヶ崎は、田んぼが並び道のわきに用水路がはしる里山の風景でした。今の夢見ヶ崎小学校があるあたりも、田んぼが広がっていたそうで、長谷川さんに言わせると「毎日がパラダイス」だったそうです。
主な遊び場は動物公園の裏山や神社の裏。見た生き物は、必ず図鑑で調べノートに書き留めていたそうです。とてもマメですね。何かきっかけがあったのですか?
ノートをつけたのは言われてからだけど、虫を調べるのは勝手にやってた。図鑑見たり、自然と。
長谷川少年はノートをどんどん書き溜めていきます。バンドに明け暮れた高校生時代を除き1日も休んだことはないというフィールドノートは、紙から電子(パソコン)になり、今や、加瀬山にいる昆虫をまとめたリストとして動物公園に保管される貴重なデータになりました。
続けていったことが形になるってすごいですね…!コツコツと続けてこられたコツはあるのでしょうか?
なるほど、毎日のゴールは達成可能なものにして、無理せず続けてこられたんですね。でも、そんなに毎日見つかるものなのか…。見つけるために気をつけていることは何ですか?
ポイントを見極めることも大切だそうです。ここには、少年時代から歩き回って養ってきた勘もありそうですね…。
地があって、初めて外が面白い
長谷川さんは、今も、加瀬山の他、生田緑地など、似たような里山をフィールドワーク先にしてお休みの日などに出かけているそうです。午前中や夜など行く時間も様々で、季節によって、見つけられる昆虫もちがうそうです。里山を中心としているのはなぜですか?
だって、この下の用水路のとことかにゲンゴロウとかいたんだよ!
どこかへ、その目的でとりにいくってのは楽しみだけれど、でもやっぱり、地元っていうか「地」があって初めて「外」が面白い。「地」がないと面白くないかもしれない。
なるほど、「地」を意識して「外」へ出るから面白さがある…。加瀬山は長谷川さんの「地」として大切なのだという思いも伝わってきます。
少年のころからずっと生き物に囲まれて過ごしてきた長谷川さんですが、 お気に入りの動物はいますか?
それまでは…有名な動物とか人気のある動物って嫌いなの。へそまがりだから。レッサーパンダも人気あるから、嫌いだったんだけど。担当になったら、どうしようもなくなって。こんな面白い動物いるんだー!って。
かわいい~ってすり寄ってきそうでいて、一切そういうところ見せない。うわ、かっこいい!っておもって。
もう、全然人になつかない。つかまえたらガブっ!てくるし。普通の動物は一回噛んだらはなさない。あいつらはガブガブガブガブって!くるんですよ。そういう二面性をもった腹黒いところが。だから好きなのかな。攻撃的なところが好きになった。
見た目ではなく、媚びない姿勢に惹かれる…、日ごろから近くで色々な姿を見る飼育員ならではの視点を感じます。他の園では、動物とのふれあいや可愛らしい姿を見られる企画が人気ですが、長谷川さんはレッサーパンダが本来持つ性格や特徴、様々な側面が「かわいい」等の一言だけで解釈されることに葛藤があるそうです。飼育員だからこその悩みという気もします…。なかなか聞けないお話です。
フィールドワークの魅力は「ドキドキ」
さて、もはや長谷川さんの代名詞でもあるフィールドワーク、その対象は徐々に種類を増やし、現在は「蛾」がアツいテーマだそうです。蛾は苦手だなとつい思ってしまいますが…。長谷川さんにとっては、どんなところが魅力なのでしょうか?
マニアックな視点…!蛾の模様をよく見たことはありませんでした…。
1年前になりますが、2018年12月27日に公式Facebookページに掲載された「夢見ヶ崎昆虫記」※2では翅のない蛾も紹介されています。興奮気味に教えてくれたのは、蛾は個体の出すフェロモンを追って移動するので、翅はなくても生きていけること。目的が達せれば形も多様!だということ。そうした予想を超える発見が、楽しみのひとつであること。また、蛾は多くの虫が見られなくなる冬も活動しており、それも魅力なのだそうです。
フィールドワークで出会った昆虫は全て写真に記録しているという長谷川さん。改めて、フィールドワークそのものの魅力について聞いてみました。
「ドキドキする」こと。人を動かす原動力は、ごちゃごちゃした理論ではなくひとことで言えるシンプルで強い気持ちなのですね。見せていただいた写真も、蝶々が飛んでいる、写真に撮るのが難しい構図のもの。長年のフィールドワークで知識はいろいろと頭に蓄えられているそうで(そう言えるのもすごい)、今は写真がメインだそうです。なんと、電子書籍で写真集もあるみたいですよ!
理解者になれれば一番いいかな
一年を通して、生き物を探し、様々な生態を探り記録していく長谷川さんはまるで研究者のようです。けれども、「研究者」という言葉を聞いた長谷川さんは首をかしげます。
笑いながら話すのは照れ隠しも含まれているではないでしょうか…。これまでのお話から、「知ってる」ために注ぐ情熱とエネルギーはかなりのものを感じます。
長谷川さんが片道3日かけて参加したネパールエコツアーのきっかけも、レッサーパンダを日々担当する中で感じた「野生のレッサーパンダも同じなのかな?」という素朴な疑問からだったそうです。
ちょっと早かったかな、決めるの。笑
その行動力は、長谷川さんの強みの一つですね…。エコツアーに行って知ったレッサーパンダを取り巻く現状は衝撃でもあったそうですが、「見に行かないとわからないから、行って良かった」と長谷川さんは言います。変えていく必要がある現状がある中、日々の業務もあり、そこもまた葛藤と課題を感じる部分でもあるそうです 。
見えないところに魅力を感じる
聞けば聞くほど奥深い、長谷川さんのお話。
さきほど「地」だと話してくれた、加瀬山のことはどう思われているのでしょうか。
加瀬山の魅力って何ですか?この質問をしたとき、長谷川さんはうなりました。「難しい質問だよね〜」と。
お客さんから見るとわからないけど、マーコールの上(に座ってるボス)はわかるけど、その下のグルグルした争いは、中にいないと見えないとか。そういうのが面白いね。あらさがしするのが面白いね。探そうとしないと見えないところ。
「あらさがし」とは言いながらも、欠点だけではないさまざまな面を見ようとしているように感じます。表の面だけ見ていては見えない実態や背景…、加瀬山の表も裏も時間をかけて知ってきた長谷川さんが言うと厚みがありますね。「隠れてないからこそ見えない」という言葉には、哲学的なニュアンスも感じます。私たちが見ている、知っている、と思うことも改めて聞かれると意外とわからない、なんてこと多いですよね。
長谷川さんは、動物公園内でも生き物を探してキョロキョロしていたり…本人曰く「ムスっと歩いて」いたりするそうですが、生き物のことでわからないことがあれば気軽に尋ねて良いそうです!夢見ヶ崎昆虫記では、その虫が見られるポイントも一緒に紹介されているので、虫探しをしたい方は要チェックです。
地元の里山で暮らす生き物に並々ならぬ興味と情熱を持って向き合い、楽しみ続ける長谷川さんのお話は、動物園まつりなどのイベントなどでも聞くことができます。
イベントがある際は、随時お知らせいたしますので、そちらも楽しみにお待ちください。
ご協力ありがとうございました!
※1 松岡達英: ふるさとの里山に暮らし、生き物や自然をさまざまな切り口から見つけ描く絵本作家。日本各地の自然観察を題材にした自然絵本、世界を巡る「黒ひげ先生の世界探検シリーズ」は年代問わず人気の作品。
※2 夢見ヶ崎昆虫記: 夢見ヶ崎動物公園の公式Facebookで長谷川さんが担当する、加瀬山で見られる昆虫の紹介コラム。不定期更新。
(写真=石井秀幸、取材・文=石井麗子)
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